主要研究課題
1.上部地殻変形における活断層の役割
上部地殻に応力がかかり活断層で変位が生じると地震が発生する。この内陸の活断層にどのように歪みが蓄積し、どのように変位に至るのかについては分からないことが多い。そこで、測地測量などから明らかとなる短期間の歪み蓄積の様子と変動地形学から明らかとなる活断層の分布や長期間の変位量などから、活断層が上部地殻の変形にどのように寄与しているのかを研究している。
2.津波と海底地形
津波の高さや遡上範囲はその波の波長と地形とによって大きく異なることが 東北地方太平洋沖地震によって明白になった。津波は地震時の海底地殻変動によって励起されるため、海底の変動地形からその地形を成長させた地震による津波の性質を推定できる。これを最近整備されつつある海底地形DEMを用いて過去の地震の特徴を推定し、歴史記録などと照らし合わせることで歴史上発生した地震を解明しようとしている。
3.自然現象と災害との関係
自然現象だけでは災害とならない。災害は自然現象が我々の社会に与えるイ ンパクトによって発生する。活断層による地震や津波といった災害にみられる被害の地域差に着目し、自然現象が災害となるメカニズムの解明に努めている。 同時に災害が地域文化に与えた影響などについて地理学的な視点で考えている。
Matta-Geographyは、多くの学生に慕われる学者です。Matta-Geographyにとって、何よりの喜びは学生の勉強への熱意と好奇心に触れることです。
自身の学びを次世代の若者たちへ伝達することが自身の使命であると考え、その熱意溢れる講義は、学生から高い評価を得ています。
活断層
活断層はなんなのか?は松多の卒論から続く研究のテーマです。日本の活断層のほとんどは、変動地形学の知見によって発見されてきました。活断層の発見は外的営力(水などの影響)で形成される地形では説明できない地形を探すことから始まります。したがって、地形学の広範な知識を必要とします。松多の指導教官の先生は「調査対象とする断層を誰もやっていないからと選ぶのではなく、既存の研究があっても典型的な活断層を最初に調査する方が、活断層の本質を見抜く目と考える思考が身に着く」との考えから、松多に日本で最も活動的な活断層である糸静線中部の牛伏寺断層近傍の調査を勧めました。卒論では変動地形学的なアプローチをしましたが、地表だけから得られる情報の限界も感じ、修士論文や博士論文では変動地形学に加えて物理探査を用いた地下構造探査を併用し、活断層による地表の変形と地下の断層の形状や動きの関係について調べました。
プレート境界も活断層です。しかし、プレート境界は一般には末端がなく活断層によって周囲を縁取られています。しかし、内陸の活断層には末端があり長さがあります。活断層が活動を続けると、その末端部はどうなってしまうのでしょうか?プレート境界だけでなく日本のようなプレートの境界付近ではプレート内部にも力がかかります。活断層周辺に力がかかりひずみが蓄積されます。ひずみが限界まで達すると活断層が動くことで歪が解放されます。この一連のプロセスを解明することが必要です。そこで、測地学的データを取り入れながら、活断層に寄らない地殻の変形や活断層周辺の歪の蓄積についても研究をしています。特に、台湾東部のクリープ(日常的にずるずるとずれている)している断層周辺でどのようにひずみが蓄積し、地震が起きているのかや、2014年に起きた神城断層地震の解明や、中部日本の活断層にどのようなすべり分布があるかなどを調査しています。
これらの活断層の研究を通して、上部地殻(日本列島)の変形がどのように起きているのか、起きてきたのかを、大地形から考察していくことを松多は目指しています。特に中国山地や吉備高原の発達史や中央構造線周辺の地殻変動はヒントを与えてくれるかもしれません。
このように、自然地理学には自然環境と人のかかわり方を考える学問という側面がありますが、それとは別にそもそも現在目にする自然環境がどのように形成されたかを解明するという側面もあります。これは、今も舞台自体がどのように変化していることを知ることになります。その変化は、自然現象だけでなく、人為的な影響もあります。自然環境の形成を探求することは地球の歴史を探る点では地質との共通点も多いです。大きな違いは、地理学は平面を空間的に理解することを試みる点で、地表に痕跡が地形として残っている第四紀後期という時代を主に対象とすることになります。
自然地理学を学ぶことで、その土地がどのように形成され、どのように変化しようとしているのかを知り、それを人がどのように活用してきたのかを見抜く目を持つことができます。この能力はどんな能力なのでしょう?例えば、災害で考えてみます。そもそも、土地が変化する場所に人の社会がある条件で、土地を変化させるような自然現象と人間社会が出会うことで災害は発生します。自然地理学が分かれば、その場所でどのような災害が起こるのか、自然現象が過去や現在の社会にどのような影響を与えるのかがわかり、未来の災害をも想像することができます。地域振興であれば、成功した地域の真似をするのではなく、自分の地域によそとは違うどんな特徴があり、それを活かすことでブランドを産み出すのかを考えることができ、日常生活では気が付きにくい地域の価値を見出すことができる可能性があります。
では、地理学の研究とはどのようなものでしょうか?地理学は空間の科学です。これは時間軸で理解する歴史学と大きく異なると言われます。地理をよく考えていない人はその言葉を真に受けて、地理は今あるものだけを羅列してみると思っている人がいます。しかし、実際には今ある景観にも経緯があり、時間の経過とともに作られたものです。この視点がないと、地理学は暗記ばかりのつまらない教科・学問になってしまうと私は思います。
我々が思考をしたり、主張や議論をしたりする言語には前後があります。したがって、時間軸に沿って進行する歴史学は説明しやすく、歴史学は言語との親和性が良いです。ところが空間の学問である地理学はそれが難しいです。そこで有効になるのは、空間の言語である地図です。視覚でとらえることができる地図は空間を表現する強力なツールです。最近では、この地図を自由自在にあやつり表現するGISが有力なツールとなっています。地図は地図を読んで理解する時代から、地図を作って気軽に空間を表現する時代に変わろうとしています。地理学ではGISのような技術を駆使しながら、地域を比較し、共通点と異なる点をあぶりだし、その地域を理解していくことが基本的な考え方になります。地理学の研究には、深くその地域に入り込むことでその地域を理解するための研究もありますが、他の地域との比較を意識してその地域の本質をあぶりだす研究もあります。私は後者の研究の方が面白いと思っています。
災害の地理学
日本に帰国後、東日本大震災が発生しました。日本地理学会のメンバーと一緒に津波被災地域のマッピングをすることになり、その後現地にたびたび訪れることになります。そこで、自然現象の大きさと人的被害の大きさが必ずしも一致しないことをしります。これは、災害が自然現象としての側面だけではなく社会現象の側面を有することを示しています。そこで、自然現象が災害にいたるプロセスを解明することが災害を軽減するために最も重要だと考えるようになりました。こののち、活断層近傍によるズレによる被害と地震の揺れによる被害とを分別すること、地域によって災害にいたる自然現象や社会現象が異なることなどに興味を持って研究をしています。
自然地理学
自然地理学を社会科で学ぶ理由を考えてみます。社会科で学ぶ、経済、政治、法律、歴史、文化など我々の周りで起きていることは、その地域で先人たちが生きてきた結果です。人々が活動した舞台が自然環境であり、自然環境が異なればそこでの生活が異なるので、歴史も文化も経済も社会現象すべてが異なってくるのです。したがって、自然地理学を学ぶことなく、社会を理解することはありえないと言えます。
このように、自然地理学には自然環境と人のかかわり方を考える学問という側面がありますが、それとは別にそもそも現在目にする自然環境がどのように形成されたかを解明するという側面もあります。これは、今も舞台自体がどのように変化していることを知ることになります。その変化は、自然現象だけでなく、人為的な影響もあります。自然環境の形成を探求することは地球の歴史を探る点では地質との共通点も多いです。大きな違いは、地理学は平面を空間的に理解することを試みる点で、地表に痕跡が地形として残っている第四紀後期という時代を主に対象とすることになります。
自然地理学を学ぶことで、その土地がどのように形成され、どのように変化しようとしているのかを知り、それを人がどのように活用してきたのかを見抜く目を持つことができます。この能力はどんな能力なのでしょう?例えば、災害で考えてみます。そもそも、土地が変化する場所に人の社会がある条件で、土地を変化させるような自然現象と人間社会が出会うことで災害は発生します。自然地理学が分かれば、その場所でどのような災害が起こるのか、自然現象が過去や現在の社会にどのような影響を与えるのかがわかり、未来の災害をも想像することができます。地域振興であれば、成功した地域の真似をするのではなく、自分の地域によそとは違うどんな特徴があり、それを活かすことでブランドを産み出すのかを考えることができ、日常生活では気が付きにくい地域の価値を見出すことができる可能性があります。
では、地理学の研究とはどのようなものでしょうか?地理学は空間の科学です。これは時間軸で理解する歴史学と大きく異なると言われます。地理をよく考えていない人はその言葉を真に受けて、地理は今あるものだけを羅列してみると思っている人がいます。しかし、実際には今ある景観にも経緯があり、時間の経過とともに作られたものです。この視点がないと、地理学は暗記ばかりのつまらない教科・学問になってしまうと私は思います。
我々が思考をしたり、主張や議論をしたりする言語には前後があります。したがって、時間軸に沿って進行する歴史学は説明しやすく、歴史学は言語との親和性が良いです。ところが空間の学問である地理学はそれが難しいです。そこで有効になるのは、空間の言語である地図です。視覚でとらえることができる地図は空間を表現する強力なツールです。最近では、この地図を自由自在にあやつり表現するGISが有力なツールとなっています。地図は地図を読んで理解する時代から、地図を作って気軽に空間を表現する時代に変わろうとしています。地理学ではGISのような技術を駆使しながら、地域を比較し、共通点と異なる点をあぶりだし、その地域を理解していくことが基本的な考え方になります。地理学の研究には、深くその地域に入り込むことでその地域を理解するための研究もありますが、他の地域との比較を意識してその地域の本質をあぶりだす研究もあります。私は後者の研究の方が面白いと思っています。
自然地理学のとらえ方
台湾では1999年に発生した集集地震の地表地震断層の痕跡をいくつもの場所で保存しています。しかし、その保存方法は多様でそれぞれの地域の被害の状況などによって大きく異なる傾向があることに興味を持ちました。災害の記憶の継承の差異は、その地域が持つ自然現象の価値観に結び付きます。これは、災害に限ったことではありません。普段何気なく存在するものに新たな価値づけをすることで、新しい価値が生まれます。これは、自然保護の考え方や、地域振興や地域教育に結び付く要素で、広くは文化の創造、伝統の継承、信仰や風俗などにも関連すると思います。このような人が自然をどのように捉えてきたのかを解明していくことにも興味があります。